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最高裁判所第一小法廷 平成4年(オ)540号 判決

上告人

山根勲

被上告人

松下通信工業株式会社

右代表者代表取締役

松田章

右訴訟代理人弁護士

狩野祐光

和田一郎

被上告人

セントランス株式会社

右代表者代表取締役

大和昭光

被上告人

セントラルエンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役

渡辺伸

右両名訴訟代理人弁護士

宇田川昌敏

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(ネ)第三五〇九号地位確認等、不当利得返還等請求事件について、同裁判所が平成三年一〇月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄)

(平成四年(オ)第五四〇号 上告人 山根勲)

上告人の上告理由

一1 松下通信が業務委託をしている事を示しているものとなっている(証拠略)の注文書にある「上記通り注文しますから、一週間以内に別紙納期回答書を、御返送下さい。」とある文面によれば、納期回答書は注文書に附随して存在するものであるはず。その様な納期回答書を用いないで、わざわざ注文書用紙に「納期回答書」という表題を貼り付けたもの(〈証拠略〉)を別途作成し、用いているのは全く不自然な事であるという外ない。納期回答書に記されるはずのない「別紙納期回答書・・・」という不自然な文章は、伝票作成時に消し忘れ、作成に失敗した痕跡である。正当な伝票にあるべき形式(納期期日欄等)も見られず、偽造したものであると言えます。

2 注文書についても納期回答書と合わせて偽造である事は山根の平成三年七月一六日の準備書面(五)の二項の説明の通りである。

3 注文書と納期回答書の番号について見ると、昭和58年度即ち西暦一九八三年度の伝票であるから、頭番号は83であるべきところ、頭番号は83ではなく、82となっていて、納期回答書と注文書は作成される時、前年度の用紙のものを使ってしまっているのである。

以上の事から、両書類は五十八年度に作られる一連の正当な伝票の中のものではなく、別途不当に作成された偽造伝票であり、松下通信が主張している業務委託は偽りであると言えます。

二1 (証拠略)新聞広告と昭和六十年九月十一日(人証略)と山根に一方的に出していた甲8号証外注加工費伝票から伺える様に、セントランス(株)(元セントラル工設(株)。以下セントランスという)は多く人員を募集し、自社の(再)下請けをする者にして他社で働かせていた。一労働者に過ぎない山根をも下請けをする者として扱い、会社と社員という雇用関係をセントランスは自ら認めていなかったのである。

2 松下通信がセントラルエンジニアリング(株)(以下エンジニアという)の社員という名目で山根を仕事に就かせているが、山根には音響やコンピューターに関する専門能力や技術経験もなく、関係する分野の技術者は松下通信に多くあり、山根をその様な技術者の多くいる職場(FDD技術課、変換器設計課)で作業に就かせているのは、単なる松下社員の手伝いをさせる為に外ならない。

3 山根が松下通信で面接させられ、仕事に就ける事が決められたのは昭和五十七年の八月初め、(証拠略)の就業契約書が作成されたのはその後の八月十一日であり、松下通信が山根の就業を要請している事を確かめられてから、全く無関係のセントランスは就業契約書を作ったのである。セントランスは中間利益を得られる事を確かめてから、雇用を形式的に決めたのである。

4 平成三年三月十四日のセントラルエンジニアリング(株)(以下エンジニアという)の準備書面(一)の二の9項の主張では、山根は一担当者として松下通信の工場で業務を担当しているとなっておりますが、セントランスの永田専務の昭和六十一年三月四日の証言127項によれば、山根は見習いとされている。

見習いが仕事を担当させられるはずがないのであるから、山根は仕事の担当者でもなく、又見習いでもない。山根の仕事は松下通信社員自身の仕事の手伝いであった。

以上の事から、正当な雇用関係がなく、自社社員として扱っていない山根を他社へ出向させているというのは理不尽な事であり、単なる人手を求めていた松下通信に対応し、セントランスは山根を松下通信に送り込んだのである。

会社側が主張している出向や業務委託は労働者供給を隠す為の名目に過ぎず、実態は形を変えた労働者供給であり、山根の正当な状態で労働する権利を歪めるものである。

三1 山根は中途入社であるから給料は通常の社員よりも安いが、設計関係の仕事は将来性のある仕事であるとセントランスの永田専務の説明で、仕事に就いたが、実際は設計製図関係ではなく、仕事は単なる松下通信の社員の手伝いであり、セントランスの仕事ではなかった。仕事で努力してもセントランスには知られず、結果的に将来性等全く期待できない状況の下で仕事をさせられていたのであった。山根は給料が安いのは全く理由のない事とセントランスと自分の関係、及び自分に対する会社側の扱い方に不自然を感じ、疑問を持つに至った。(給料を安く決められたのはセントランスが中間利得を得やすくする為だった。)

不自然な扱いの下で働かされている事について、山根は会社側に質問したが、松下通信、エンジニア、セントランス等三社は大変不都合を感じ、答えに窮し、その後エンジニアを通して松下通信が仕事をやめさせると山根に通知し、山根はそれで松下通信へ仕事に行けなくなったのである。

以上が解雇されるまでのいきさつであり、解雇は不当なものであると言えます。

2 山根はセントランスに雇用されていたと思わせられていたが、実際の仕事は松下通信自社内のものであり、仕事の指示は松下通信の社員が行い、仕事に対す代償も松下通信が支払っていたのであるから、松下通信が雇用主であると解すべきである。松下通信は不当解雇の責任を免れないというべきである。

3 山根は不自然な状態の下で働かされる様になっていたのは松下通信とエンジニアとセントランス等が雇用者としての責任を免れたり、又不当な中間利得を得ようとしたりした為である。

以上

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